原発避難者の集団起訴は、日本の古都である京都でも?その要因と経緯

2018年09月27日
その他
原発避難者の集団起訴は、日本の古都である京都でも?その要因と経緯

福島原子力発電所の事故から避難した人たちにより,原発がない京都で,原発を巡る集団訴訟が行われ、国と電力会社が敗訴した事例がありました。


 



1.京都で起こされた原発避難の集団訴訟とは


これは,2011年東北大震災で発生した、福島第一原子力発電所の事故により、福島、茨城、千葉各県から京都府へ避難した住民が、福島での従来の地域コミュニティが失われ、従来の生活基盤を失ったとした集団訴訟です。


被害者の生活再建,再出発を行なうために損害の賠償が必要であるとし、57世帯174人が国と東電に計約85000万円の損害賠償を請求しています。


福島原発事故は,事故後の対応が遅れたことに一番の問題があります。


最初の爆発から情報が錯綜し、放射能の範囲やその影響を正確には把握できませんでした。


そのため、避難勧告は「避難指示区域」半径20キロという円形の範囲にとどまり、半径30キロ県外は屋内退避となりました


また,最初は屋内退避区域で生活をしていたとしても,復興過程の中で、区域外へ生活を移す必要も生じ,福島隣県以外の全国にまでその範囲が拡大していきました。


 



2.なぜ原発の集団訴訟が京都で起こされたのか


京都府に自主避難した元福島住民57世帯174人が、国と東電に提訴したのは、福島県の避難世帯の内、約68%が京都市内に居住されていることによります。


避難された方の内,事故以前から福島県内に住んでいたとされる134世帯あり、警戒区域に住んでいた22世帯です。


京都府に移住を決めた理由は、家族や親族がいるからというものや,京都府が関西広域連合として福島県を応援していたからというものまた,原発や放射能の心配が無いからというのが、多いようです。



2-1.原発避難者の集団訴訟は京都だけではない


全国で約12000人が約30件ほど集団訴訟が起こされており、前橋地裁から始まり、千葉、福島、東京各地裁に続いて5目に提起されたのが,この京都の集団訴訟にあたります。


この訴訟原告は、自主的に避難された143人であり、福島県外の茨城、千葉など他県からも29人が参加しています。



2-2.自主的避難区域とは?


 

は,事故後1年間の被ばく線量の合計(積算線量)が20ミリシーベルトになりそうな区域の内、福島第一原発から20km圏外の区域を「計画的避難区域」とし、当該区域の中に暮らす方々に,避難するよう求めました。


また,福島第一原発から2030km圏内を「緊急時避難準備区域」とし、緊急時には,屋内退避又は避難をしてもらう区域としました。


そして,福島第一原発から20km圏内については,一部例外を除き,立ち入りを禁止する「警戒区域」としました。


そのため,「計画的避難区域」及び「警戒区域」に居住されていた方々は,転居せざるを得なくなりました。


自主避難とは、避難指示や避難勧告などが発令されていない段階で避難することです。


事故による放射線被曝の不安や、事故発生後も元の生活圏内の残留放射線への不安から,自主的に避難され方々がいます


このような自主的に避難をされた方々への賠償は,中間指針追補をもって策定すると定められました



2-3.中間指針追補とは?


「中間指針追補」とは,原子力損害賠償紛争審査会がまとめた,区域外避難者に関する損害賠償の枠組みについての指針です。


この中で、まず,「自主的避難等対象区域」として福島県内23市町村を指定しました。そして,自主的避難等対象区域内からの避難者、滞在者共に,一律で一人8万円、18歳以下の子供や妊婦は,一人40万円を支払うこととしました。


これは,事故発生当初の時点では、十分な情報が得られない状況にあるとして、大量の放射線被曝の不安から、年齢に関係なく自主避難は妥当であるという考えに拠るものです


また事故後一定の期間が経過しても、子供や妊婦の場合は放射線の影響大きいことから、自主避難には当然の合理性があると言えます。


 



3.原発避難者訴訟京都基準とは


もっとも,上記の指針は,個性を無視した定額賠償であり,その額に不満を持つ人も少なくはないでしょう。


本件訴訟では結局,東電と国に賠償責任を認め,その額も上記指針とは異なっています。


すなわち,福島第1原発からの距離,避難指示区域との近接性,自治体における自主的避難者数の状況,避難時期,自主的避難等対象区域との近接性,子供や放射線の影響を特に懸念すべき家族の有無など,基準を定め,個別事情に即した判断をしました。


これが京都基準というものであり,一律に賠償しようとする上記指針と比べ,画期的な判決だと評する声も見受けられます。


当該判決は,原告174人の内,149人に避難の相当性を認めました。


そして,この内,東電が既に支払った額を差し引いて,最終的には,110人の請求が認められました。


 



4.どんな人が原告でどんな主張をしている?


当該訴訟では、福島県や茨城、千葉など他県からの避難者も原告に加わっています。


避難された方々は,平穏な日常生活を奪われ、二重生活に伴う負担増を強いられたと主張しています。


避難先での生活は、福祉や教育などサービスを提供する避難元の自治体から離れて暮らすので、慣れない場所に転居するのは当然負担が大きいです。



 


5.京都集団訴訟 まとめ


2011年から7年経った現在も、福島原発事故影響はまだ続いています。


京都基準は,個々人の特徴に従った救済を目指した点で評価されていますが,未だ全ての被害者が救済されたわけではありません。

全ての被害者の方が一刻も早く元の生活に戻れるよう,国は尽力すべきですが,国の施策を待つのではなく,自ら集団訴訟というアクションを起こすことも有効であることが,本件訴訟で示されたのではないでしょうか。

 
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